「マイあさ!」 マイ!Biz「デジタル遺品の生前対策」(NHK) を聞いて

2025年9月25日に放送されたラジオ番組 「マイあさ!」 マイ!Biz「デジタル遺品の生前対策」を聞きました。

1.デジタル遺品の定義と分類
番組では「デジタル遺品」を オフライン(PC・スマホ・内部保存データ)と オンライン(SNS・クラウド・ネット口座・サブスク等)に二分しています。
この整理はわかりやすく、聞き手に「デジタル遺品が多層的に存在する」ことを気づかせる良い導入です。
特にオンラインの例示(SNSやネットバンキング、証券口座など)が具体的で、リスクを実感させやすい構成になっています。

2. パスワード管理の要点
「開かずの扉」になり得るパスワード問題に触れ、管理アプリの活用と紙に書き残すアナログ手法の双方を紹介しているのは実践的です。
また「信頼できる家族にのみ伝える」という注意も、セキュリティと実務性のバランスをとった提案になっています。

3. 経済的リスクの指摘
デジタル遺品が単なる「思い出」だけではなく、放置によって遺族に損害が発生する可能性(例:放置株式や請求トラブル)に言及した点は重要です。
感情面と経済面を結びつけることで、問題の深刻さを理解させています。

4. 対策の柱としての「リスト化」
「自分が利用しているオンラインサービスをリスト化する」ことを中心に据えているのは、シンプルかつ再現性が高い方法です。
さらに「不要なサービスは解約・不要なデータは削除」「残すべきものはバックアップ」など、整理と保存を同時に促す二方向の実践的アプローチが提示されています。

5. 故人の名誉保護の視点
放置アカウントが不正利用される可能性や、プライベート写真が不用意に公開されるリスクについて触れている点は、遺族の心理的負担や故人の尊厳を守るという観点からも大切です。
単なる情報管理に留まらず、「人の尊厳をどう継承するか」という倫理的側面に広がっています。

6.具体的な対策の提案として、
 ①パスワード管理アプリとマスターパスワードの安全な共有
 ②紙のノートに書き残す伝統的な方法
 ③利用サービスのリスト化
 ④不要データの削除と必要データの多重バックアップ
 ⑤遺されたデータの「どう扱ってほしいか」を意思表示しておく
と段階的に紹介しており、専門的すぎず一般視聴者に落とし込みやすいバランスが取れていました。

7. 感想
抽象的な「デジタル遺品」ではなく、誰もが使っているSNSやネット銀行を具体例に挙げたことで、リスナーが「自分ごと」として考えやすくなっています。
NHKらしい公共性と普遍性が感じられます。  
パスワード管理やリスト化といった具体的な実務対策だけでなく、思い出・名誉・尊厳といった情緒的・倫理的要素にも触れた点は、単なるマニュアルを超えて「生前整理の哲学」を提示しています。  
「大切な情報を後世に残す前向きな取り組み」と締めているのは素晴らしく、死後の話題でありながら、聞き手に不安ではなく「準備による安心感」を与えています。

私はこの放送を通じて、デジタル遺品対策が「死後の不安の軽減策」というよりも、家族への思いやりの延長線上にある行為だと改めて感じました。
アカウントやデータは本人だけのもののようでありながら、実際には遺族や社会に影響を及ぼすものです。
その意味で「リスト化」「バックアップ」「解約と削除の判断」は、日常生活の延長としてすぐに取り組める「生きている今を整える作業」ともいえるでしょう。

また、「残す・残さない」を自分で選び、その意志を言葉や形で残しておくことは、単なる資産管理を超えた自己表現の一部でもあると感じます。
これは「遺品整理」という言葉から連想される暗さを超えて、むしろ人生の集大成をデザインする行為だと言えるのではないでしょうか。