「マイあさ!」 サタデーエッセー・工藤勇一(学校教育アドバイザー)「できなくても大丈夫」(NHK) を聞いて
2025年9月27日に放送されたラジオ番組 「マイあさ!」 サタデーエッセー・工藤勇一(学校教育アドバイザー)「できなくても大丈夫」を聞きました。

1.「努力・継続・やればできる」への疑問
日本では長年、努力や忍耐が美徳とされ、それを通じて成果を得ることが当然とされてきました。
しかし、工藤さんはその裏側にある「できないと自分を責める構造」に目を向けています。特に休暇のたびに自己成長課題を背負い込み、できなかったときに自己否定に陥る人が多いという指摘は、現代の大人たちのメンタル負担とも直結しています。
2. 夏休みと宿題の問題
欧米諸国では長期休暇に宿題を課すことはなく、子どもたちは自分で考えて自由に過ごします。
一方、日本は「休み=勉強強化の時間」となりがちで、開放感を味わえません。この違いが、子どもの自主性や創造性に大きな影響を与えていることを示唆しています。
8月31日に工藤さんが「宿題をやらなくても大丈夫」とメールを送ったのは、子どもに安心感を与えると同時に、保護者にも教育観を問い直す機会を提供した点で画期的です。
3. 脳科学と「できなくても当たり前」
人間の脳は「頑張り続ける」ようにはできていない、という説明が印象的です。
3日坊主は「根性がない」ことではなく、むしろ自然な人間の反応だと肯定する視点は、学習や挑戦に対する心理的ハードルを下げてくれます。
これは教育現場だけでなく、社会人の自己啓発や職場の成長支援にも応用できる考え方です。
4. 自主性と内発的動機付け
宿題を出さなかった学校では、子どもたちが自分で計画を立て、やりたいことに挑戦しました。
この経験が二学期以降の学びや生活に役立ったという点は、教育の本質を突いています。
つまり「与えられた課題をこなす」よりも、「自ら考えて取り組む」ことの方が、長期的な力になるということです。

5. 社会的背景との接続
不登校が34万人を超え、自死する子どもが多い現状を背景に語られると、このメッセージの重みがさらに際立ちます。
「何かを達成しなければならない」という圧力は、ときに子どもの命さえ奪ってしまう。だからこそ、「できなくてもいい」という言葉は救いとなりうるのです。
6. 感想
教育理念を語るだけでなく、校長として「宿題なし」「安心メール」といった実践を行っている点が説得力を高めています。
理想論にとどまらず、現場での試みが裏打ちされているのは非常に価値があります。 脳科学の知見を用いて「頑張れないのは当たり前」と説明したことで、単なる精神論ではなく合理的な根拠に基づく主張となっています。
これにより、多くの大人も納得しやすい形になっています。
このメッセージは子どもだけでなく、大人にも通じるものです。
休暇中に「何かを成し遂げなければ」と焦りを感じる社会人にも、「休んでもいい」「できなくても大丈夫」という言葉は強い励ましとなります。
工藤さんの語りは、教育を「できるか・できないか」という狭い物差しから解放する勇気を与えてくれます。
私自身も「休みこそ何かを成し遂げねば」と思い込みがちですが、このエッセーを通じて「休みは休んでいい」「できなくても責めなくていい」と心を軽くする視点を得られました。
特に印象的だったのは「できなくても当たり前。できたら素敵。」という言葉です。
これは子どもだけでなく、大人にとっても生き方の指針になる柔らかな知恵だと感じました。
競争や成果主義に偏りがちな現代社会において、このような考え方は、一人ひとりの心を守り、長い目で見て創造性や持続的な力を育むものでしょう。