マイあさ! 「最低賃金アップで介護職の人手不足加速?」(NHK) を聞いて
2025年9月22日に放送されたラジオ番組 マイあさ! 「最低賃金アップで介護職の人手不足加速?」を聞きました。

1.賃金改定のタイムラグ問題
介護職員の賃金は3年に一度の介護報酬改定に依存していますが、他産業は毎年賃金改定が行われるため、労働市場における競争力が失われやすいことが明確に指摘されています。
特に2024年の改定では+1.59%と小幅にとどまり、最低賃金上昇に追いついていない現状が浮き彫りとなりました。
この制度的タイムラグが、他産業への人材流出を加速させている構造的な問題です。
2. 訪問介護の収益構造と地域格差
集合住宅での訪問介護は効率が良いものの、一軒ごとの訪問は移動コストが大きく収益が悪化しやすい。
このため、地方では訪問介護事業所が撤退し、全国で109自治体に指定事業所が「ゼロ」という衝撃的な数字が示されました。
都市と地方での介護インフラ格差が急速に拡大していることが強調されています。
3. 高齢化の現実と人材減少
介護保険制度が25周年を迎える今年、後期高齢者は2,100万人を超え、国民の5人に1人に達しました。
にもかかわらず、今年介護職員の数が初めて減少に転じたことは、制度の持続性に対する深刻な警鐘です。
需要は拡大するのに供給が縮小しているという「逆転現象」が、政策の緊急性を裏付けています。
4. 財源と賃金引き上げの方向性
処遇改善加算を活用し、基本報酬を10%程度引き上げなければ全産業との賃金格差は埋まらないという指摘は極めて現実的です。
その財源として、介護費用14兆円のうち追加で1.4兆円を確保する必要があるとという試算があります。
税制改革(資産課税強化、法人税・相続税の増税)が具体的に挙げられており、議論を具体的な政策オプションに結びつけている点が評価できます。

5. 共生型サービスの可能性と限界
介護と障害福祉を一体的に提供する「共生型サービス」は、人材を効率的に活用する手段として注目されます。
しかし、介護と障害福祉では必要とされる技術やケア内容が異なるため、単純統合ではなく、新たな研修・人材育成が不可欠であることも明確化されました。
ここに「部分的解決策」としての位置づけが見えます。
6.感想
この番組は、単に「介護職の人手不足」という抽象的な問題提起にとどまらず、制度的タイムラグ、地域格差、財源問題、人材育成の限界といった多層的な要因をバランスよく整理して提示していました。
特に「109自治体に事業所ゼロ」という具体的データは、聴取者に強いインパクトを与え、問題を自分事として考えさせる力があります。
また、解決策として「臨時改定」や「財源の組み替え」を提案した点は、批判にとどまらず建設的な方向性を示していたことが高く評価できます。
聴きながら、介護の現場を支える人たちの声が制度に反映されにくい「時間差」が最大の課題だと痛感しました。
最低賃金アップ自体は社会にとって望ましい政策ですが、それが介護業界にとっては「逆風」になってしまう皮肉は、制度設計の硬直性を如実に物語っています。
また、都市部と地方の訪問介護の格差は、単なる「高齢化の問題」ではなく「地域存続の問題」に直結していると感じました。
介護人材の確保が進まなければ、地方で暮らし続けること自体が難しくなる可能性があります。
最後に、共生型サービスの紹介は希望を感じました。
現場での工夫や制度の柔軟な運用が、限られた人材を支え合う新しいモデルを作り出すかもしれません。
課題は多いものの、こうした議論が広く社会に共有されることで「介護の未来をどう守るか」という国民的な合意形成が進んでいくのではないかと、前向きに受け止めました。