マイあさ! ワールドアイ「オーストラリアの住宅事情」(NHK) を聞いて

2025年9月16日に放送されたラジオ番組 マイあさ! ワールドアイ「オーストラリアの住宅事情」を聞きました。

1.住宅価格の高騰と意外性
オーストラリアという広大な国土を有する国で、住宅価格が極端に高騰しているという現状は直感に反する驚きがあります。
一般的には「土地が広い=住宅価格が安い」というイメージがある中で、全国平均価格が1億円を超え、特にシドニー郊外では最低でも2億円という水準は、日本人リスナーにとって非常に衝撃的に響きます。

この背景には、以下のような構造的要因が絡んでいます:
人が居住可能な地域が限られており、人口の6割以上が三大都市圏に集中している。
水資源の制約により、開発可能なエリアが狭い。
移民政策により毎年100万人規模で人口が増加し、需要が供給を圧倒している。
このように「国土が広くても、住める土地が限られる」というジオポリティカルな観点が的確に紹介されており、地理学や都市政策的にも非常に興味深い内容です。

2. 住宅をめぐる階層構造と政策的ジレンマ
番組内では、オーストラリアの国民を次の3層に分類しています:
現金購入済またはローン完済層(1/3)
現在ローン返済中の層(1/3)
持ち家のない層(1/3)
この構造により、住宅価格の下落が「国民の2/3に損失を与える」可能性があり、政治的にも住宅価格を劇的に下げる政策を取ることが与党・野党ともに困難だという指摘は非常にリアルです。
これは、「住宅=居住空間」であると同時に「金融資産」であるという二重の性格を持つがゆえに、価格の上下が社会的安定や選挙戦略に直結する、という現代都市社会のジレンマを浮き彫りにしています。

3. 住宅取得のライフコースとしての位置付け
1980年代から今日に至るまで、オーストラリアでは住宅価格が一般の物価の3倍以上のペースで上昇。
若年層は20代でまず小さなマンションを購入し、所得上昇や家族構成の変化に合わせて段階的に買い替えるという「不動産による資産形成の階段構造」が定着していたと紹介されます。
しかし、今日ではそのモデルが「機能不全」に近づいており、「最初の一歩=エントリーポイント」すら踏み出せない若者が増加していることが推察されます。
これはオーストラリアに限らず、日本を含む先進国共通の課題として、グローバルな共感を呼ぶテーマです。

4.感想
この番組の優れていた点は、単に「住宅が高い」という表層的な事実にとどまらず、地理・人口動態・移民政策・政治構造までを有機的に結びつけて分析していたことです。
「広大な国土があるのに住宅価格が高騰するのはなぜか」という素朴な疑問から出発し、自然条件の制約と都市集中というパラドックスを示した点は、非常に教育的かつ分かりやすかったと思います。
さらに、持ち家率の高さが政治構造を規定するという切り口は、住宅問題を単なる経済やライフスタイルの問題ではなく、社会全体の制度的課題として捉え直す視点を提供していました。

日本では人口減少・空き家増加が大きな課題となっていますが、オーストラリアでは逆に移民流入と都市集中による住宅不足が社会問題化している。
対照的なようでいて、どちらも「住宅は社会の構造を映し出す鏡」であることに変わりはありません。
また、住宅を「資産」として考える視点と「生活の基盤」として考える視点のズレが、世代間の断絶を生む点は、日本にとっても無縁ではない問題です。
この番組は、住宅をめぐるグローバルな課題を、自分の暮らしの延長として捉える契機を与えてくれた、とても意義深い内容だったと思います。