マイあさ!  ワールドリポート「パナマ運河めぐる米中対立」(NHK) を聞いて

2025年9月11日に放送されたラジオ番組 マイあさ!  「パナマ運河めぐる米中対立」を聞きました。

1.パナマ運河の地政学的重要性の再確認
パナマ運河は、太平洋と大西洋を結ぶ約80kmの水路であり、世界の海上貿易量の5%が通過する極めて重要なインフラです。
この数字だけでも、パナマ運河が単なる「中南米の運河」ではなく、グローバル経済を支える「大動脈」であることが明確です。

さらに、番組では運河を通過する船舶の国別構成にも言及され、日本が3番目の利用国であることを紹介しています。
これは日本の貿易、特にエネルギーや工業製品の輸送におけるこの運河の戦略的意義を物語っています。

2. 米中対立の文脈におけるパナマ
アメリカと中国という2つの超大国が、直接的ではないにせよ、影響力争いを繰り広げている「舞台装置」の一つとしてパナマ運河があることが浮き彫りになりました。

トランプ前大統領の「中国が運河を支配している」とする発言について、番組は冷静に事実関係を整理し、「運河そのものの管理権はパナマ政府にあり、港湾施設の一部を香港系企業が運営しているだけ」と明言しています。
この点において、感情論ではなく、ファクトベースの議論を促す姿勢が光ります。

3. パナマの外交的バランスと「グローバルサウス」の苦悩
パナマが今年2月に「一帯一路」から離脱した背景に、アメリカからの圧力があったとされる点も番組内で触れられています。
ここで焦点となるのが、「グローバルサウス」と呼ばれる中小国が大国のはざまで取るべき外交的スタンスです。

米中の覇権争いに巻き込まれながらも、自国の主権や発展を守るために、いかに「ルールに基づいた国際秩序」に留まるかという視点は、単なる安全保障論や経済論を超え、国際法と主権尊重の原理に立脚した深いテーマです。

4. 日本に求められる役割の明確化
番組の結論部では、「日本は国際協調の枠組みを維持・発展させる外交力と経済協力が求められている」と明言されています。
ここでのキーワードは「ルールに基づいた秩序(rule-based order)」と「経済協力」。
日本がアメリカ寄りに偏りすぎず、中国に迎合しすぎず、独自の「調停者」的立場を取ることができるのか。その問いかけが暗に込められており、非常に示唆的です。

5. 感想
トランプ氏の誤解を招く発言に対して、冷静にファクトチェックを行い、事実と印象論を区別した構成は公共放送ならではの良質なジャーナリズムでした。
日本国内ではあまり知られていない「香港企業による港湾運営」などの情報も含まれており、聴取者に深い理解を促す役割を果たしています。  
単なる二国間関係(米中)の紹介にとどまらず、「グローバルサウス」や「ルールに基づく国際秩序」という、より広い文脈での問題提起がなされている点が優れています。
これは、外交や経済を国際的な構造の中で捉える、現代的な視座を提供するものです。  
パナマの話題を起点としつつ、日本が今後どのような立場をとるべきかまで話が展開されている点に、番組の企図の深さを感じます。
単なる海外ニュース紹介にとどまらず、日本の聴取者に「自国の外交・安全保障」を考えさせる構成になっており、公共メディアの使命を果たした好例と言えます。