Nらじ 「ミッド・ライフ・クライシス」(NHK) を聞いて
2025年9月8日に放送されたラジオ番組 Nらじ 「ミッド・ライフ・クライシス」を聞きました。

1.中年期の危機=第二の思春期という新しい視座
番組では、40代〜50代に訪れる心身の変化を「第二の思春期」と中年期の葛藤を捉える試みがありました。
体力の衰え、更年期、キャリアや子育ての一段落といった「喪失」の連続は、ある意味で人生の転換点であり、それを乗り越える力を見つめ直す契機でもあります。
2. 脳科学とのリンク:前頭前野と海馬の萎縮
脳の加齢による変化、特に前頭前野と海馬の萎縮が不安やストレスの増加に関係しているという解説は、心理的な問題を「脳の構造変化」として捉えることで、自己批判を避ける視点を与えています。
この科学的根拠に基づく説明は、悩みを恥じずに受け入れる土壌を作る上で非常に効果的です。
3. 乗り越える手段:運動・趣味・書き出し
特に有酸素運動と趣味による知的好奇心の刺激が脳の萎縮を抑えるという指摘つまり、有酸素運動で海馬を活性化し、不安を和らげ、趣味・知的好奇心が前頭前野を刺激し、加齢変化を抑えるという指摘は、実践的でありながら脳科学に裏打ちされた前向きなメッセージです。
さらに、感情や悩みを「文字にして書き出す」という手法は、認知行動療法的な要素もあり、自分自身との健全な距離を保つ手段として非常に有効です。
4. 「モヤモヤの分解」→「希望の言語化」
悩みを「体・心理・教養・人間関係・お金・生活」などの領域に分解し、それを「不安」ではなく「希望」の形で書き出すアプローチは、自己再構築への第一歩として斬新かつ有効です。
たとえば「足腰が不安」ではなく「これからも健康に歩きたい」と希望の形で書くことで、言葉の力が現実を変える可能性を示唆しています。

5. 「過去の自分を探る」手法のユニークさ
年齢を横軸、気分の浮き沈みを縦軸にしたグラフ作成は、まるで自己史の可視化装置です。
浮きの時期に共通する「ワクワク」や「熱中」を再発見することで、自分の価値観のルーツに気づき直す手法として非常に実践的かつ創造的です。
6. 「嫌いな人」をヒントに好きを掘り出す逆説的アプローチ
「好きが分からないなら、嫌いから考えよ」という逆転の発想は、自己認識が困難な人に対しても極めて有効です。
嫌いな人に共通する要素の“裏返し”が、自分にとっての大切な価値観であるというアイデアは、簡単でありながら本質的です。
7.感想
この番組は、単なる「中年の危機」というネガティブな印象を、科学・心理・実践の三本柱から明るく希望に変える構成が見事でした。
肯定的で実践的な視点が一貫しており、聞く人を落ち込ませるのではなく、「次のステージに進むための準備」としてミッドライフ・クライシスを捉え直しています。
とくに「悩み=整理すれば希望になる」という構図は、人生における“翻訳”作業ともいえ、すべての世代に通用する発想です。
また、「脳の仕組みを理解する」ことが、自分への思いやりや行動変容を後押しするという点も、現代的で科学的根拠のあるアプローチとして高く評価できます。
この放送は、ミッドライフ・クライシスを「人生の終わりの始まり」ではなく「自己再発見と再出発のチャンス」として捉え直す力を、やさしく、明確に、そして温かく伝えてくれました。