マイあさ! エッセー 「持ち味」に注目する組織開発 「私の活動の原動力」勅使川原真衣(NHK) を聞いて
2025年9月6日に放送されたラジオ番組 マイあさ! エッセー 「持ち味」に注目する組織開発 「私の活動の原動力」勅使川原真衣を聞きました。

1.能力主義批判の本質をつく視点
勅使川原さんは、近代以降「能力」によって人を評価し、分配するという原理が続いてきたことに疑問を投げかけます。
特に鋭いのは、「能力主義というのは、能力の低い人には少ない給料で我慢してくださいと言い切る社会」という指摘です。
これは単なる雇用制度批判ではなく、私たちの価値観や社会構造全体に潜む"からくり"を明るみに出す問いであり、現代における"構造的絶望"を見事に言語化しています。
また、「能力」というものの曖昧さ——リーダーシップやエンゲージメント、美意識など——を挙げ、「何をどう改善すればよいかすら不明確なのに評価されてしまう」という構造批判は、多くの人が無力感を抱く職場環境の根源を突いています。
2. 「持ち味」に注目する組織開発のアプローチ
勅使川原さんの実践は、従来の「できる・できない」「良い・悪い」といった二元的な人材評価を超えて、「人材は水平多元的に広がっている」「持ち味の違いを見る」という立場に立っています。
ここには人を”素材”として活かす眼差しがあり、単なる理論ではなく、現場に根差した柔軟で希望ある人間観が垣間見えます。
彼女が行うヒアリングや対話を通じた組織改善は、「いじれるところはないか」を一緒に探っていくというプロセス重視の姿勢であり、「人と人、人とタスクの最適な組み合わせ」を模索する点で、個別最適と全体最適の調和を志向していると評価できます。
3. 社会変革への穏やかで共感的な誘い
最後に特筆すべきは、彼女の語り口の「トーン」です。
「怒っている人というよりは、なんとかしたくて困っちゃってる人という感じ」
この一言に、彼女の活動の本質が現れています。
問題を批判しつつも、敵対ではなく、共感と連帯をベースにして社会変革を志す姿勢です。
これは、今の時代に求められる「ソフトなアクティビズム」の在り方であり、多くの人を巻き込む力を持っています。

4, 感想
勅使川原さんの語りは、「能力」という見えにくい概念に光を当て、再考を促す知的で実践的な試みです。
同時に、「誰もが自分の持ち味を生かして生きられる社会」への道筋を示す希望に満ちた社会提案とも言えるでしょう。
批判精神がありながらも、人間に対する深い信頼と温かさがにじみ出ており、聞き手の心に染み入るような説得力を持っています。
このエッセーの核心は、「希望を語る前に、今自分が何に絶望しているのか」を見つめるというメッセージです。
これは、本当の変化を生むにはまず”痛みの共有”から始まるという、心理学的にも社会学的にも非常に深い洞察です。
その上で「面白く、楽しみながらやっていきたい」と語る姿は、理想と現実の間に立つ、現代的な実践知の体現者として、多くの共感を集めることでしょう。