マイあさ!  著者からの手紙 「ボツ 『少年ジャンプ』伝説の編集長の“嫌われる”仕事術」を聞いて

2025年9月7日に放送されたラジオ番組 マイあさ!  著者からの手紙 「ボツ 『少年ジャンプ』伝説の編集長の“嫌われる”仕事術」を聞いて

1.「ボツ」は否定ではなく信頼の表れ
本番組の中核には、「ボツを出せるのは作家を信じているから」という強烈な逆説が据えられています。
ただのダメ出しではなく、「才能を見抜き、それを引き出すための行為」としてのボツは、極めてポジティブな意味合いを持って描かれていました。
ここには、クリエイターとの信頼関係の構築、そして作品と作者双方の成長を促す編集者としての矜持が滲み出ています。

2. 編集者とは“発掘者”であり“読者の代弁者”
「スポーツは作家の埋蔵量を掘り出すスコップだ」という比喩が秀逸です。
編集者はただ作品を評価する立場にとどまらず、作家の内に潜む可能性を掘り起こす発掘者であり、「文法」を通して作品の質を高める技術的・構造的アドバイザーでもあることが語られます。
この「目利き」の力が、『ドラゴンボール』『ワンピース』『NARUTO』といった国民的作品を生み出す源になったと強調されます。

3. 組織との距離感と「ミッションドリブン」な働き方
「仕事とは“人に仕えること”ではなく、事に仕えること」「上司の愚痴を聞くよりも、ミッションをクリアすることが大事」といった言葉には、昭和的な会社人間像への痛烈な批判と、個の使命に基づいた現代的な働き方の提示が込められています。
上司の理不尽さに耐えるのではなく、RPGのように攻略法を考え、仲間を募り、戦略を変えるというたとえは、働き方をアップデートするヒントを与えてくれます。

4. 読者と作家を“雇用主”とするプロフェッショナリズム
「僕の給料は会社ではなく読者と作家が払ってくれる」という言葉は、編集という仕事の本質を突いています。
これは、真の顧客志向、あるいは読者・クリエイターに対するリスペクトの現れであり、仕事に対する誠実な姿勢とプライドを感じさせます。

5. “面白さ”の再現性と理論化への挑戦
「漫画には文法がある」「分析ができるから提案もできる」という指摘は、面白さを“感覚”だけに依存せず、理論と技術で支えるという編集哲学を示しています。
この姿勢は、職人的なカンに頼りがちな日本の編集文化に対する、次世代的なアプローチでもあります。

6.感想
この放送は、単なる「名物編集者」の逸話紹介にとどまらず、編集という行為の核心と、働くことの意味を根源から問い直す内容となっていました。

特に感銘を受けたのは、「ボツ=信頼」「ミッション優先」「読者と作家を雇用主とする感覚」といった発想の転換です。
現代のビジネス現場においても、上司や組織への忖度ではなく、「顧客の成果」「本質的な価値の提供」を軸にした働き方が求められています。
その意味で、この編集長の姿勢は、すべての職業人にとって普遍的な教訓を与えるものでした。
また、RPGになぞらえた成長論は、若い世代にも刺さるユーモラスかつ実践的な比喩であり、難しい組織論・職業論を噛み砕いて伝えるセンスの良さが光っていました。

「嫌われる勇気を持って、“こと”に仕える」――この姿勢こそが、ヒット作の陰にあった編集者の信念であり、私たちがあらゆる仕事において見習うべき「本質への誠実さ」なのだと強く感じました。

それは、作家の才能を引き出し、読者の心を掴み、そして編集という職能の価値を社会に示す行為であり、まさに「職人」としての道でした。すべての「伴走者」に捧げたい回でした。