マイあさ! マイ!Biz「インフレの“恩恵”とは」(NHK) を聞いて
2025年9月5日に放送されたラジオ番組 マイあさ! マイ!Biz「インフレの“恩恵”とは」を聞きました。

1.インフレの発端と変遷:輸入物価→賃金インフレへ
番組では、日本のインフレが2022年頃から始まり、当初は「円安」や「輸入物価の上昇」に起因していたことが強調されます。
これは世界的なサプライチェーンの混乱やエネルギー価格高騰の影響でもありました。
しかしこの1年で、日本のインフレはより「構造的」なものへと移行。企業の賃上げや、人々の「物価は上がって当然」という受容意識の変化が、これを後押ししています。
つまり、短期的なコストプッシュ型から、需要サイドも含んだ“賃金・物価連動型”インフレへとシフトしているのです。
2. 賃金上昇の現実と限界
番組中では「連合が2年連続で5%の賃上げを達成」と伝えられます。これは過去数十年見られなかった傾向であり、重要な構造転換の兆しです。
しかし一方で、その恩恵が「すべての人に及んでいるわけではない」と指摘。
これは非正規雇用層や高齢者、零細事業者など、“賃上げの波”から取り残される層が存在することを示唆しています。格差拡大への懸念もぬぐえません。
3. この30年のデフレの呪縛からの脱却
「この30年間、物価も賃金も上がらなかった」――まさに失われた30年の総括です。
インフレというと悪者扱いされがちですが、“適度なインフレ”こそが経済活力の証であるという視点が、番組全体を貫いています。
特に、物価上昇率2%という日銀のターゲットインフレ率は、世界的にも標準的であり、番組では「3%は高すぎ、2%に収めるべき」として安定成長の道筋を強調している点が印象的です。

4. 政府財政へのインフレ効果:180兆円の“棚ぼた”
とくに興味深いのが、「政府がインフレで180兆円得をする」という視点です。
これは、インフレによって税収が増える一方で、過去に借りた国債の実質返済負担が軽くなる(=借金の実質価値が下がる)という現象です。
・税収増:所得税、消費税、法人税などが名目ベースで増加
・利払い増:一方で、新規国債の利回り上昇による負担もあり
これらをバランスさせながら、「2%インフレ」の軌道を保ち、得られた財政余剰(180兆円)を再分配すべきという政策的提言が含まれています。
5. 感想
この番組は、単なるインフレ批判に終始するのではなく、むしろ「望ましい形のインフレ」に日本経済がようやく向かい始めたという前向きな評価を提示しています。
インフレを単なる「生活コスト上昇」として捉えるのではなく、「経済のエネルギーの復活」として捉える視点が秀逸です。
「すべての人が恩恵を受けているわけではない」という点を明示することで、インフレのポジティブな側面と、置き去りにされる層への配慮が両立されています。
現実的かつ中立的な報道姿勢といえるでしょう。
「インフレによって国が得をする」という意外性のある指摘は、聴取者にとって新鮮かつ示唆に富むものでした。
この180兆円の再分配先をどうするか、という論点は今後の政治・経済議論にとって極めて重要です。
この180兆円は、インフレに取り残されやすい人、例えば、可処分所得が固定・低い層(年金生活者、非正規で交渉力が弱い層)、価格転嫁が難しい中小企業、変動金利の借り手のために使われるべきである。
「2%のインフレをコントロールしつつ、その果実を社会に還元する」というビジョンが現実味を帯びてきた今、政治や企業に求められるのは、持続的かつ包摂的な仕組み作りです。この番組は、そうした方向性を丁寧に提示してくれる貴重なコンテンツでした。