まんまる ひとのわ 「雑誌のつくりかた」(NHK) を聞いて
2025年8月27日に放送されたラジオ番組 まんまる ひとのわ 「雑誌のつくりかた」を聞きました。

1.編集という営みの「雑談性」と「瞬発力」
田島朗編集長が「会議で決めても面白いものは出てこない」と語る点は非常に示唆的です。雑誌づくりの根幹は形式ばった議論ではなく、雑談や日常的な対話から自然に生まれる「発見」にある。
これは即興性や編集者の感性を重視するアプローチで、企画の「鮮度」と「独自性」を確保する源泉になっています。
また、「完全自転車操業」と述べているのも印象的です。
計画性よりも「今」という社会の変化に瞬発的に対応する柔軟さが求められ、雑誌が「時代の空気を吸う器」であることを端的に示しています。
2. 伝統と革新の両輪
「NHKがいつでも面白い理由。伝統と革新の仕事術。」というキャッチコピーの重みは、単なる宣伝文句ではなく雑誌の生存戦略そのものです。
読者に「学び」を提供しつつ、NHKという老舗ブランドを革新の象徴として提示している。
この二重性が、読者の関心を引きつけるだけでなく、雑誌そのもののブランド力を高めています。
また、NHKの番組裏側の紹介や、紅白タイムキーパーやピラミッド透視装置の開発者といった“知られざる専門家”の存在は、まさに雑誌の「発見装置」としての役割を体現していました。
3.「新しい視点」がすべての基準
“ニュー・パースペクティブ・フォー・オール(新たな視点を求めるすべての人へ)”という編集理念は、ジャーナリズムの核心に迫るキーワードです。
「この企画に新しい視点があるか」が最も大事だという言葉に、BRUTUSが単なるトレンド追随メディアではなく、思考の方向を提案する存在であるという誇りが感じられます。

4. コンテンツと収益の両立
雑誌を「面白くする」ことと「売れるものにする」ことのバランス感覚も見事です。
ファッションブランドや時計特集など、企業と協働してコンテンツをつくる手法は、広告収入を確保しながらも雑誌の独自性を失わない工夫といえます。
「珍奇鉱物」をファッション的に撮影して女性層にアプローチした事例も秀逸です。異分野を掛け合わせる編集的発想が、雑誌の新たな読者層を開拓する成功例となっています。
5. デジタル化時代の編集者像
デジタル化についての言及も前向きで、「紙の終焉」を嘆くのではなく、「媒体が増えたことで仕事の幅が広がった」と捉えている点は非常に建設的です。
ウェブやアプリ、動画を含むクロスメディア展開の中心に「編集者」がいると強調する姿勢は、今後の出版人に勇気を与えるものです。
同時に「紙には紙でしか得られない栄養がある」と述べ、ラジオと同じように想像力を刺激する余白の価値を語った点は、伝統メディアの意義を改めて浮き彫りにしています。