マイあさ! マイ!Biz「経済学からみた『最低賃金引き上げ』」(NHK) を聞いて

2025年8月25日に放送されたラジオ番組 マイあさ! マイ!Biz「経済学からみた『最低賃金引き上げ』」を聞きました。

8月4日、中央最低賃金審議会が全国加重平均で+63円(約6%)の1,118円という目安を提示。実現すれば全47都道府県で1,000円超が見込まれます。
これは過去最大幅の更新です。

番組で提示された「最低賃金引き上げの二つのロジック」は、経済学的な議論の典型を示しています。
負の側面:雇用コスト増 → 採用縮小・失業増加
正の側面:家計所得増 → 消費拡大・売上増加
この対比を示すことで、聴き手は単純に「最低賃金=善」あるいは「悪」と決めつけず、多面的に考える視点を得られます。
特に「地域・業種・経済状況によって影響は異なる」と明示した点は、短絡的な理解を防ぐバランスの取れた説明です。

番組では「これまでの日本では最低賃金引き上げは就業率を下げる方向に作用してきた」と過去データを紹介しつつ、同時に「今後もそうなるとは限らない」と柔軟に留保を置いています。
これは、過去の統計と現在の労働市場の変化(人手不足や好調な企業収益)をどう接続するかを示しており、データと現状を組み合わせて考える姿勢を聴き手に促しています。

最低賃金を上げるだけでは解決できない企業側の事情について、「DXや生産性向上を通じて賃上げ余力を生み出す必要性」が強調されています。
ここには単なる規制や政策だけでなく、企業努力や構造改革の重要性が組み込まれており、「経済学的な原則」と「現場の改善努力」の両面を捉えている点が評価できます。

「賃金が上がらない企業から転職する」という選択肢が提示されている点も注目です。
インターネット普及による地方での雇用機会拡大に触れており、労働者が市場を主体的に活用できる可能性を示しています。
これは、聴き手に「自分ごと」として考えるきっかけを与え、単なる政策論を超えて生活実感に接続しています。
雇用縮小と消費拡大という両側面を明確に提示し、一方に偏らない議論の仕立て方は、公共放送らしい公正さと知的誠実さを感じさせます。
単なる理論にとどまらず、「少子化」「人手不足」「最高益を出す企業」といった現在進行形の状況に言及することで、2025年というタイミングに即した実感的な解説になっています。

今回の放送は、最低賃金という複雑で対立を生みやすいテーマを、分かりやすくかつ冷静に整理してくれていると感じました。
聴き手にとって印象的なのは、単なる数字の紹介ではなく、「最低賃金の上昇が、自分の生活や働き方にどうつながるのか」を考えさせてくれる点です。

また、「企業の生産性向上」や「労働者の転職」という言葉は、最低賃金の議論を政策論に閉じ込めず、社会全体の変化や個々人の行動へとつなげる広がりを持たせています。
その意味で、番組は「経済学的な論理」と「生活実感」を架橋する役割を果たしており、経済番組として非常に質が高いと評価できます。

最低賃金の引き上げは「危うさ」と「希望」の両方を含んでいることを的確に示しつつ、構造改革や個人の選択の余地を強調した、聴き手に考える力を与える解説だった、というのが全体の肯定的な印象です。