マイあさ! マイ!Biz「戦後80年日本経済」(寺島実郎)を聞いて
2025年8月15日に放送されたラジオ番組 マイあさ! マイ!Biz「戦後80年日本経済」(寺島実郎)を聞きました。

1.戦後から高度経済成長期への軌跡
番組では、1945年の敗戦後から半世紀でGDPの世界シェアが3%から18%へと急伸したことを強調しています。
これは単なる経済成長ではなく、冷戦期の国際秩序(IMF、GATT)に巧みに適応し、軍事費を抑え、経済国家として資源を集中させた戦略の成果です。
鉄鋼・自動車・産業エレクトロニクスといった基幹産業が、日本を「工業生産力モデルの優等生」に押し上げました。
加えて、「アメリカのような豊かな国になりたい」という国民的願望が、大量生産・大量消費の大衆社会形成を推進力にしたのも特徴です。
2. 1990年代以降の相対的地位低下
1990年代からの30年間で、日本のGDPシェアは3.6%へと大幅縮小しました。
これは単に中国やアジア新興国の台頭による相対的後退ではなく、冷戦後の世界構造の転換に対応しきれなかった構造的問題の表れです。
特に2000年代以降は、円安・株高誘導という短期的政策に依存し、産業・技術革新への長期的投資が後回しになったことが指摘されています。
3. 人口動態と経済発想の転換
2008年から昨年までに人口は642万人減少。特に「生産年齢人口」(15歳~64歳) の定義をめぐって、15~22歳の多くが学生であること、65歳以上も一律に「老人」とみなすことの非現実性が示されました。
これは人材資源の再評価と活用が不可欠であることを意味します。
労働力不足の時代において、従来の人口分類を超えた柔軟な社会設計が求められています。
4. 今後の産業基盤づくり
寺島氏は、医療・防災・食料・農業といった国民生活の安全保障分野を軸にした新たな産業基盤の構築を提案しています。特に食料自給率の低さはインフレ時代において致命的なリスクであり、経済の「レジリエンス(耐久力)」強化の象徴的課題です。ここには、従来の輸出志向型成長モデルから、内需・自給型の持続可能モデルへの転換という大きな課題が見えます。

5. 感想
①今回の内容は、戦後日本の経済史を「栄光と油断」の対比で描き出した骨太な分析でした。
特に印象的なのは、成功体験が長期的には足かせとなり、政策や産業構造の革新を遅らせたという指摘です。
②番組は「金融相場への慣れ」が思考の惰性を生んだという指摘で本質を突いていました。
株高や円安は“手段”であって“目的”ではない。
ここを取り違えず、有形資産から無形資産・人への投資へと回路を切り替えられるかが勝負どころです。
③また、「65歳で一律引退」という発想を外す提案は現実的で希望があります。
“勤労の質”を柔らかく設計し直すことで、高齢社会はマイナスだけでなく価値創出の場にもなり得ると感じました。
④加えて、食料・医療・防災といった生活基盤を経済戦略の中核に据える発想は、グローバルサプライチェーンが揺らぐ現代において説得力があります。
食と医療・防災を“コスト”ではなく国力の土台として再評価する視点に強く賛成です。
無形資産・人・生活基盤へ資源配分を張り替えられるなら、日本は「量の優等生」から「質の先導者」へと静かにフェーズシフトできるはずです。