ラジオ番組 マイあさ! 著者からの手紙『格差の“格”ってなんですか?』(NHK)を聞いて
2025年6月22日に放送されたラジオ番組 マイあさ! 著者からの手紙『格差の“格”ってなんですか?』(NHK)を聞きました。

この番組は、一般に「正しい」とされる価値観や社会通念に対して、鋭い問いを投げかける思索的な内容です。
この番組は、リーダーシップ研修や自己啓発など、「がんばれば報われる」「努力して上を目指せ」といったポジティブな言説が、むしろ人々に不安やコンプレックスを植えつけている点を指摘しています。
ここには、現代社会が「向上心」を名目にして、際限のない競争を正当化し、資本主義の歯車へと人々を取り込んでいるという批判が読み取れます。
たとえば、「もっと頑張りましょう」という励ましが、逆に「頑張っていない人には価値がない」という圧力になる——そのような構造的な問題意識が根底にあります。
私たちが何かを「理解しよう」とするとき、無意識にカテゴライズし、「分ける」ことによって「分かる」状態を作っています。
しかし、その「分ける」という行為が、結果的に人と人の間に線引きをしてしまい、「分断」を生む可能性があるという指摘は非常に示唆的です。
また、「格差」を論じるときに、「この人は下、あの人は上」と格づけをする視点そのものが、そもそも差別的な眼差しを含んでしまっていないか、という反省が促されています。
ディズニーランドに何回行けるか、という体験格差の例が印象的です。
単に「回数」が多いから「格」が上だと考えるのは短絡的で、そこに「人としての価値」や「幸福度」を安易に結びつけてしまう危うさを批判しています。
つまり、「格差」という言葉には、どこか「人間の価値の優劣」という含意が潜んでいるが、それを無自覚に使うことで、私たちは他者を(そして自分自身を)無意識に傷つけてしまう。

「もっと頑張って、もっと成長しよう」というメッセージが、実は「今のままのあなたではダメですよ」という否定を含んでしまっている。
自己肯定感を高めようとすることすら、「条件付きの愛」の延長線上にあるのではないか?
この視点は、教育や子育て、働き方に対する大きな問いを投げかけます。
「頑張らないと愛されない」社会では、誰もが常に「不十分」な存在であり続けるほかありません。
この番組は、現代社会に蔓延する競争主義・成果主義・啓発主義に対して、非常に冷静かつ根源的な批判を行っており、大きな共感を覚えました。
とりわけ、「社会は自分たちが日々つくっている」という言葉には、深い希望が感じられます。
ただ批判して絶望するのではなく、「自分たちが変えることができるのだ」という立場に立っている点に、著者の誠実さがにじんでいます。
このラジオ番組は、現代人が無自覚に内面化してしまっている「競争しなければ価値がない」「もっと頑張れ」という圧力に疑問を投げかけ、「人間の価値とは何か」「豊かさとは何か」「分かるとは何か」という根源的な問いを私たちに返してきます。
その問いにすぐ答えを出す必要はないかもしれません。
けれど、こうした問いをもち続けること自体が、「魂を守る」第一歩になるのだと感じさせられる、静かで力強い内容でした。