NHKジャーナル「VRで記憶をつなぐ 戦後80年の戦跡保全」を聞いて
2025年6月17日に放送されたNHKジャーナル 地域発「VRで記憶をつなぐ 戦後80年の戦跡保全」を聞きました。
この番組は、戦争体験の継承という困難な課題に、デジタル技術、特にVR(仮想現実)を用いて向き合おうとする先進的かつ意義深い取り組みを伝えています。

沖縄の「がま(自然洞窟)」など、戦争当時の避難壕や陣地跡は、時間の経過とともに物理的な劣化が進み、保存が非常に難しい状況にあります。
特に落盤や崩落などで、現地調査が将来的に不可能になるリスクが高く、「記録は時間との勝負」という言葉が、この活動の切迫感を物語っています。
これまでは、語り部や実際の戦跡への訪問に大きく依存していた平和学習。
しかし、戦後80年が過ぎ、語り部の高齢化が進む今、「体験者に直接学ぶ」機会が急速に失われつつある現実があります。
その代替としてVRが果たす役割は、情報の保存だけでなく、「どう伝えるか」「どう心に残すか」という教育的観点でも非常に重要です。
特に学校教育の現場において、自由にアクセス可能な教材として活用できる点は、未来への投資と言えるでしょう。
このプロジェクトの核となるのは、単なる3D記録ではなく、その場所に「いたように感じられる」没入型体験です。
ユーザーはPCやスマホで、戦時中の洞窟に実際に入ったかのような感覚を得られ、画面上のボタンを通じて戦争体験者の証言や、当時の写真・映像にアクセスできます。
このVR体験には、アメリカ側が残した当時の写真や映像も含まれています。
これにより、一方的な視点に偏らず、歴史をより立体的・多角的に捉える機会が生まれます。歴史教育において「多様な視点を持つこと」は、戦争の悲惨さとともに、国際理解や和解の重要性も学ぶことにつながります。

この取り組みには、深い感動を覚えました。
風化していく戦跡と、消えゆく語り部の声。
その「記憶」を未来に手渡すために、技術が人間の知恵として用いられていることに、強い希望を感じます。
戦争を知らない世代が、単なる知識の暗記ではなく、「なぜ戦争が起きたのか」「どうすれば繰り返さないのか」を主体的に考える力を育てるための「橋渡し」として、VRやデジタルアーカイブは極めて有効です。
しかし同時に、「技術で体験が代替できるわけではない」という点も押さえておくべきです。
記録や仮想体験は、あくまで補助的な手段であり、それを通じて「何を感じ、何を考えるか」は、私たち一人ひとりの感受性と想像力にかかっています。
このような取り組みが全国各地に広がり、戦争を風化させず、記憶を「未来の知恵」に変えていくことを、心から願います。