新美の巨人たち 尾形光琳作 「燕子花図屏風」を見て

2019年5月4日に放送されたテレビ番組 新美の巨人たち 尾形光琳作 「燕子花図屏風」(放送局:テレビ東京)を見ました。

この番組は、尾形光琳の国宝《燕子花図屏風》(かきつばたずびょうぶ)の魅力と革新性を明らかにしています。

 

 

 

「咲き誇るカキツバタ。ただ、それだけ。金地を背景に、土もない。水もない。人もいない。でも、美しい。」という部分は、《燕子花図屏風》の革新性を端的に示しています。

自然の一断面——カキツバタの花だけ——を選び、それ以外のすべて(風景、人物、物語)を削ぎ落としています。

しかし、その「欠如」がかえって純粋な造形美とリズムを際立たせています。これは「装飾」と「余白(間)」の美学を極めた、琳派独特の思想とも結びつきます。

 

使われている絵具は花弁の群青と葉の緑青のたった二色です。

わずか二色に限定された色彩は、画面を単調にするどころか、岩絵具特有の粒子によって微妙な濃淡を可能にし、花弁の柔らかさや湿潤な空気感を想像させます。

細やかな質感と大胆な構成のコントラストが、視覚的にも精神的にも深い印象を残します。

 

左隻はやや上から見た形、対して右隻は花とほぼ水平の視点から見た形で、左隻より右隻の方が明るい色合いで描いています。

これは、屏風という可動式の空間芸術において、見る者の立ち位置によって印象が変化することを前提とした意図的なものです。

画面の中に「時間」や「移動」の感覚が取り入れられています。

静止画でありながら、動きや変化を誘発する、日本独自の空間処理です。

 

 

 

カキツバタをジグザグと上下しながら、リズミカルに並べることにより、視覚的リズムが生じ、まるで舞うような浮遊感を生み、動的な視覚体験を可能にしています。

 

さらに、ジグザグの頂点が、折り目と重なるようになっています。

そうすることで、折り曲げたときに奥行きがより強調されて見えるのです。

折り目を巧みに利用し、より立体的な風景、三次元のカキツバタを出現させたのです。

 

「屏風の前で動いてみてください。咲き誇るかきつばたの花々がゆれています。」

この作品の最も注目すべき点は、鑑賞者の身体的な移動を想定していることです。

屏風の前を動くことで、見る角度や光の反射が変化し、花々が揺れているかのように見えるという体験型アートとも言える作品になっています。