レンブラント 《夜警》の魅力
2023年9月10日に放送された日曜美術館 “実物大”で迫る!レンブラント「夜警」(NHK)を見ました。

この番組は、レンブラントの代表作《夜警》について、絵画の美術的・技術的・象徴的な魅力を多角的に描き出しています。
16〜17世紀のオランダは「市民革命」のような時代で、貴族や王侯ではなく、都市の自営業者・職人・商人などの「市民」が社会の担い手となっていました。
肖像画の発注者が貴族から市民に移ることで、絵画のモチーフも変化します。
《夜警》は火縄銃手組合という民兵団の依頼で制作された集団肖像画です。
従来の「整列・静的・儀礼的」な肖像画に対し、レンブラントは「動的・物語的・劇的」な構図で挑み、肖像画の常識を覆しました。
レンブラントの絵は、まさにバロック芸術の精髄です。
画面に深い陰影をつけ、登場人物を浮き立たせ、心理的な緊張感を高める。
人物たちは単に並んでポーズを取るのではなく、今にも行進を始めそうな躍動感に満ちており、視線が画面全体を動き回るように誘導されています。
少女の姿や中央の人物の腕に注がれる光は、観る者の目を自然に誘導する巧妙な設計です。
《夜警》には、単なる集合肖像にとどまらない象徴がいくつも仕込まれています。
少女のニワトリ(火縄銃手組合のシンボル)、鶏の爪、銃の火打ち石、黄色の衣はすべて組合の象徴であり、この少女は団体の「擬人化」的存在と見なせます。
この少女の容貌が亡き妻サスキアに酷似しているという指摘は、絵画に私的な哀悼を込めた可能性を示唆します。
手の影がアムステルダム市の紋章を指している点には、この絵が市民の誇りである都市とその守護の意志を表すという、政治的・社会的意味合いも込められています。
レンブラントの絵画表現の厚み・質感・色彩は、彼の技術的挑戦の成果でもあります。
酸化鉛を含んだ油の使用:粘性を高め、絵の具に盛り上がりを持たせ、立体的・彫刻的な効果を実現しました。
パラ鶏冠石という猛毒ながら鮮やかな黄金色を出す顔料を使用し、危険を冒してでも「新しい色」を追求する姿勢は、絵画への情熱の表れです。

画面奥にひっそりと描かれた人物がレンブラント本人であるという説もあります。
他の人物とは異なり、明るいハイライトが瞳に入り、鑑賞者を見つめているような視線。
この視線は、画家が「作品の創造者としての存在」を主張しているとも読めます。
これは単なる署名以上の自己主張であり、「観る者の意識に入り込む」という現代的な表現でもあります。
《夜警》は、市民社会の時代精神を映し出し、美術様式としての革新を遂げ、象徴と物語の層を幾重にも重ね、技術と感情を統合し、画家自身の存在をも織り込んだ、極めて複雑かつ先進的な作品です。
400年以上たった今でも鑑賞者に新たな問いと驚きを与えるこの作品は、単なる「肖像画」ではなく、時代・社会・感情・技法・芸術哲学が融合した「総合芸術」として評価されるべきでしょう。