ラジオ番組 Biz・経済展望「トランプ政権にみる関税政策」を聞いて

2025年5月2日に放送されたラジオ番組 Biz・経済展望「トランプ政権にみる関税政策」(放送局:NHK)を聞いた。

この番組の渡辺さんの分析は、アメリカの関税政策が世界の物価や経済に与える影響を、歴史と理論の両面から丁寧に整理した非常に興味深いものでした。

 

関税はもともとアメリカ政府の主要な財源であり、特に第二次世界大戦以前は税収の中心だったことは知りませんでした。

1989年のベルリンの壁崩壊を契機にグローバル化と自由貿易が進み、アメリカを含む先進国では関税率が大きく低下し、2017年まで続いたが、トランプ政権の関税引き上げにより、再び保護主義的な動きに逆戻りしていると分析。

保護主義への回帰を単なる例外ではなく「構造転換の兆候」と捉える点に、この分析の深みを感じました。

 

 

リカードの比較優位の理論に基づく自由貿易は、各国が得意なものを生産して交換することで全体の利益を最大化する。

しかし現実には、国内に競争力の低い産業が存在し、それらは輸入品に押されて失業や格差拡大の原因となる。

リカード理論の「国内の不平等拡大」という副作用が焦点となっています。

この理論が「社会構造の変化」を十分に扱えないことへの批判です。

アメリカでトランプ政権が登場したのは、衣類・鉄鋼などの産業でこうした犠牲が出て、それに寄り添う主張をしたからだと分かりました。

 

 

関税引き上げの物価への短期的な影響としては、アメリカ国内では輸入品が高くなるため短期的に物価が上がる(コストプッシュ型インフレ)。

ただし、これは一過性であり、恒常的なインフレ(物価上昇の連続)にはつながらない可能性が高い。

中長期的な影響としては、「脱グローバル化」が進み、企業は国内回帰や高コストな地域での生産を選ぶようになってくると、長期的には世界的な物価上昇(インフレ圧力)が生まれる。

特に日本のように輸入依存度が高い国は、間接的に影響を受けやすくなる。

「物価上昇に注意しましょう」という表面的な警鐘にとどまらず、「なぜそうなるのか」「その背後に何があるのか」を説き、私たちの思考を導いている点がとても素晴らしい。

 

グローバル化の終焉という国際的な潮目の変化を前提に、私たちの生活設計も見直す必要があります。

「物価上昇、金利上昇、教育費増加」などを念頭に置いた中長期の生活設計が求められています。

渡辺さんの分析は、「関税」という一見限定的な経済政策が、実はグローバルな構造変化や私たちの生活設計にまで影響を及ぼすことを明確にしており、非常に示唆に富んでいます。

短期的な価格変動だけに目を奪われるのではなく、脱グローバル時代の生活戦略を考えるべきだという指摘は、多くの人にとって実用的で重要なアドバイスといえます。