「生成AIの著作権問題」石角友愛(AI開発会社CEO) ラジオ番組『マイあさ! 』マイ!Biz (NHK) を聞いて

2025年12月9日に放送されたラジオ番組『マイあさ! 』マイ!Biz「生成AIの著作権問題」石角友愛(AI開発会社CEO)を聞きました。


1.「生成AIの著作権問題」が多層的であることの明確化
石角友愛氏の話の大きな特徴は、生成AIの著作権問題を「学習 → 生成 → 利用」*という一連のプロセス全体として捉えている点にあります。
多くの議論は「生成されたものが似ているかどうか」「販売してよいか」といった最終段階に集中しがちですが、本番組では、
・著作権作品を学習データとして無断利用する問題
・元作品と酷似した生成物が生まれる問題
・それを広告・販売などビジネス目的で使う問題
が相互に連動していることが、整理された形で提示されました。
これは、生成AIをめぐる議論を感情論や単純な賛否から引き離し、制度設計と実務の問題として考えるための重要な視点です。

2.「公正利用(フェアユース)」をめぐる対立構造の的確な提示
アメリカを中心に議論されている「公正利用」についても、肯定派・否定派の論点がバランスよく整理されていました。
肯定派
・学習は新しい価値を生むためのプロセスであり、知の共有と発展の一環である。
・著作権の独占を一定程度緩和することで、言論の自由や教育・公益が守られる。
否定派
・権利者の意思を無視し、しかも商業利用を前提とするならば、公正利用とは言えない。
・特に、巨大IT企業が利益を得る構造は、制度の趣旨から逸脱している。
この整理は、どちらか一方を断罪するのではなく、なぜ対立が生じているのかを理解させる点で非常に教育的です。

3.訴訟事例を通じて示される「現実のリスク」
番組が優れているのは、抽象論にとどまらず、
・2023年のMetaへの訴訟
・2024年の全米レコード業界による音楽生成AI企業への提訴
・2025年のディズニー、ユニバーサルなど映画会社の訴訟
・新聞社(朝日・日経)による記事無断利用を理由とした提訴
・円谷プロの事例(ウルトラマン)
といった具体的なケースを挙げ、「著作権問題がすでに現実のビジネスリスクになっている」ことを明確に示している点です。
ここから浮かび上がるのは、生成AIは「便利だがグレー」な存在ではなく、使い方次第で訴訟やサービス停止に直結する技術だという厳しい現実です。

4.企業と利用者、双方の責任を示した点の意義
石角氏は、問題の責任を単に「AI開発企業」や「利用者」だけに押し付けていません。
①開発企業に求められる姿勢
・学習データの出所の透明化
・権利者との包括ライセンス契約
・自動監視・フィルタリング技術の導入
・国や地域ごとのルール作りへの積極関与
②データ・コンテンツ保有企業の役割
・自社資産を守ることが、顧客の信頼を守ることにつながる
・ルール形成への参加は「守り」だけでなく「戦略」でもある
③利用者に求められる倫理意識
・著作権リスクを自覚する
・「知らなかった」では済まされない時代である
この三者①②③の関係を協力関係として描いている点は、非常に現実的かつ建設的です。

5. 感想
石角友愛氏の発言は、専門的な立場からの冷静な分析であると同時に、AI利用が誰にとっても「自分事」であることを強調する内容でした。
番組を聞いたリスナーの多くが、自らのSNS利用や画像生成ツールの活用について「立ち止まって考える」きっかけになったはずです。

AI開発企業の代表という立場から、生成AIの進化を否定するのではなく、その健全な利用環境の構築を促していた点が印象的です。
問題点を明確にしつつ、対策の方向性を提示する姿勢は、技術と社会を橋渡しする理想的なリーダー像と言えるでしょう。

この放送は、著作権が法律上のテクニカルなルールであるだけでなく、創作物と向き合う倫理・リテラシーの問題であることを再認識させてくれます。
生成AIが民主化される一方で、使い手の倫理的成熟が追いつかないというジレンマに対し、「著作権をめぐる教養」の必要性を語る姿勢は極めて重要です。

「生成AIの著作権問題」というテーマは、いまや一部の専門家だけでなく、クリエイター・利用者・企業・教育機関など社会全体に関わる課題です。
石角友愛氏のように、冷静な事実認識と未来志向の提案を両立する発信は、AIと共に生きる時代の羅針盤となるものでした。
この放送は、AIの進化に浮かれがちな空気に一石を投じると同時に、「だからこそ、よりよい社会をつくるために何ができるか」を問い直す貴重な機会だったと言えるでしょう。